全国生活と健康を守る会連合会
   
トップページへ 前のページへ
 
 
全生連の紹介
会からのお知らせ
発行物の紹介
暮らしに役立つ制度紹介
各地の生活と健康を守る会
アクセス
 
守る新聞からのおもなニュース紹介 画像

「生活保護は権利」メッセージ広く届けよう

首相答弁引き出した田村智子議員を囲んで

 6月15日、参議院決算委員会で生活保護について質問した田村智子議員(日本共産党)に対し、安倍首相が「文化的な生活を送る権利がある。ためらわず申請していただきたい」と答弁しました。憲法で定められた権利であり当然のことですが、安倍首相自身からその答弁を引き出したことは画期的です。これを受け、首都圏の生活と健康を守る会役員が田村議員を訪ね、どのような思いで質問をしたのか、生活保護の現場で起きていること、これからの運動について、などを話し合いました。(赤木佳子、齊藤 豊)

 野秀純さん(以下、野) 千葉県生活と健康を守る会連合会事務局長の野です。本日はよろしくお願いします。
 さっそくですが、田村議員が生活保護のことを国会質問で取り上げた経緯を伺います。
 田村智子さん(以下、田村) はい、よろしくお願いします。
 まず、あの決算委員会での質問が、おそらく通常国会最後のテレビ中継される質問になるということが分かっていたんです。それでコロナ禍の下、いろいろな支援策を活用してもなお困窮に陥る人が出ることが避け難い状況ですから、その人たちにきちんとしたメッセージを伝える必要があるというのが大きな問題意識でした。

●プラスのメッセージを

 質問準備にあたっては、各地で電話やネットを通じての相談活動をしているみなさんの情報を集めていきました。残念ながら水際作戦のようなことがたくさん行われている、この問題は示さなくてはいけないけれど、それだけでなく「もっと活用していいんだ、こういうときの生活保護じゃないか」ということがプラスの方向で伝わるようにということを意識しました。
 私たちも、厚生労働省が要件緩和を比較的早い時期からやっているのは分かっていたんです。しかしそれが行き渡っていない現場の対応に驚きました。車や自宅の保有の問題とか、稼働能力の確認なども後回しにして、とにかくまずは申請を、ということになっているのに、聞いたところでは漁師さんに船を売れと言ったとか。誇りを持って働いてきた手段である船を売ってしまっては、逆に自立を難しくしてしまいますよね。これは厚労省が通知を出しているのが分かっていたので、政府を追及するというよりも、それをちゃんと自治体に行き渡らせることを求めようと考えました。
 生活保護行政をやっていた自治体の元職員の人からは、普段から人権の問題をきちんと研修などで学んでいれば、「この人にとってこれから生きていく上で本当に力になる支援は何なのか」と個別のケースごとに対応でき、どんどん希望が見えてくる、それが本来の生活保護行政なのに、今は人も減らされて、そういう研修も行き渡らず、そういった力が自治体から奪われてしまっている現状があることもお聞きしました。

●厚労省通知の「こころ」

 今回、厚労省が要件緩和の通知をなぜ出したのか。これはこの突然の収入減、収入が途絶えるという未曽有(みぞう)の事態の中、一時的な収入減の状態からもう一度働いて自立するという道の最短距離を考えれば、持っている物を処分しろとはならないはずですよね。この人が立ち上がってまた仕事ができたり、よりよく生きられたりするかを考えての、最短の道を行くための通知だと、その「こころ」をつかんでもらうしかない。だからなぜこの要件緩和を厚労省がやったのかを、大臣に答弁させたいと思いました。
 リーマンショックのころはまだ候補者でしたが、街頭での相談活動などをしていました。その中で、派遣切りにあいネットカフェで暮らす人が「生活保護は嫌」と断固拒否するんです。「もっと使いやすい制度であれば」「生活保護は権利だということがどうしたら伝わるのか」と考えました。
 今回は対決というよりも、前向きに「生活保護は権利だと呼びかけてほしい」と求めました。もし否定するようなら突っ込めばいいし、まさか否定することはないだろう、という「賭け」でもあったのですが、最終的には「ためらわずに申請を」との答弁を引き出すことができました。
  続いて東京の加藤さんから実態を含め、現在行われていることなどお話しください。
 加藤勝治さん(以下、加藤) 東京都生活と健康を守る会連合会事務局長代行と板橋生活と健康を守る会会長をしています。
 板橋では車を持っている左官職人が仕事がなくなってしまい、生活保護を申請。そのときに車を売れと言われましたが、執拗には言われずそのまま持っていたら、その後、仕事が来たので生活保護の利用をやめて仕事をしています。コロナ禍の下でそういう良さがやや出てきました。
 一番困ったのは住宅です。派遣社員の人が失業し、会社の寮を追い出されてどうしたらいいんだと。収入もないし、生活保護申請に同行してくれと言われ役所に同行。そうしたら、無料低額宿泊所に3か月入って…という話をされる。「それはおかしいだろう。ちゃんとアパートを用意して住めるように対応してほしい」という要求を出しました。しかしどうにも突破できませんでした。そのやり取りを聞いていた申請者本人が「生活保護を利用するのは大変だな」と諦め気分になり、本人は「とりあえず友人に頼み家を探して、それからもう1回来る」と言い、その場では諦めたことがあります。
 田村 住居の問題は一つの核になっていると私も感じています。

申請に対する障害 外注やCWの問題

 笹井敏子さん(以下、笹井) 埼玉県生活と健康を守る会連合会会長の笹井です。
 先日、ある夫妻(74歳・71歳)と生活保護の申請同行に行きました。夫は足に障害がある障害者なので妻と行きました。その夫妻は以前から相談に来ていて、申請への説得に半年を要しました。原因は本人たちのプライドが高かったのと、世間的に知られるのがつらかったようです。
 親は死去。きょうだいは生存。きょうだいに知られるのが恥ずかしいと。夫のきょうだいは異母きょうだいで40年行き来がないとのことです。
 私は自治体に「この申請者はそういう人なので、扶養関係を照会しないでくれ」と言いました。しかしケースワーカー(CW)は「決まりなので、検討するが…」と濁して終わりました。
  千葉県は“遅れた地域”で、生活保護の級地が5段階あり、格差があります。級地による差が最大2万円あります。級地で千葉県民は苦しめられています。
 また、福祉課の業務を外部委託しています。非正規職員がいて、研修されておらず、杓子定規に保護申請者を追い返してしまう。こういう実態が、特に生健会のない所ではたくさん出ています。
 それと、CW1人が90世帯以上の保護利用者を担当し、過重負担で苦しんでいます。これを変えさせないといけません。
 加藤 今の職員の負担の件ですが、自治体が外注(外部委託)をやっていますよね。保護費過誤払いの取り立てを民間会社に委託している。あれはやめさせてほしい。職員を増やして、専門の資格を持った、生活保護の内容をよく分かっているCWを配置してほしいです。
 田村 新型コロナの問題で、政治や自治体や国の仕事とは何なのかという問い直しが大規模に今、行われていると思うんですよね。“誰にでも起こり得る”という経験をみんなが経験しました。突然収入がなくなってしまうとか、仕事を失ってしまうとか、急に生活困窮に陥ることがあるんだということにみんなが気づいたんですよね。
 そのときに「大丈夫」と言える仕組みをつくることが政治の仕事だ、ということにみんなが気づき始めていると思えます。ある意味、生活保護に対する理解を深められる契機が今、訪れているなと感じます。

コロナ禍で脚光を 生活保護は権利だ

  そのあたりで自己責任論が非常に強い地域含めて、一般の人たちはどう思っているのでしょうか…。
 加藤 田村さんの言う通りだと思います。少し前までは「生活保護を受けるのは努力や能力が足りないんだ。やり方が悪いんだ」と言っていた人たちがいましたからね。でもコロナ禍で「ひとごとじゃない」と思い始めた人がいっぱいいると思います。それで、いろんな給付金があるけれど、“明日のコメがなくなってしまう”というときに、一番使い勝手のいい生活保護が今、脚光を浴びなくてはいけないと思います。でも親族の問題とか、誰かに迷惑をかけるとか、「俺はここまで落ちてしまったか」といった恥の意識のようなものが邪魔をしているんですよね。
 笹井 ですから「生活保護法」ではなく「生活保障法」に法律の名称を変えましょうよ。「保護」という言葉が良くないです。上から目線で「保護してやっているぞ」という感じになり、利用している人も卑屈になってしまうので、そうじゃなくて「権利なんだ」ということを理解できるように、私たちは何度も言っています。
 田村 そうですよね。生活保護は権利で、それが分かるような制度の改善をすることが必要ですよね。
 それと先日、日本記者クラブで話をする機会があったんですが、そのときに話したのは、国や自治体が自らビジネスをやるのが自分たちの仕事みたいに、そこに人もつけるしお金もつけると。IRなどをやろうとしている大阪がその典型ですよね。でも一番住民と向き合うところには外注でいいよと。
 自治体の仕事はビジネスに突っ走ることじゃなく、住民の福祉、暮らしをどうするかというのが最大の仕事だということがコロナ禍で分かったと思います。自治体には生健会はパートナーと思ってもらい“共に地域の課題に取り組む”というような関係になっていけるといいですよね。

首相答弁を活用しよう 同時に運動強化しよう

  では、最後に一言ずつ、生活保護に対するバッシングや国民感情をどう変えていくのか、という点ではどうでしょうか。
 加藤 難しいですが、困ったときに誰でも使えるんだよと、そういう考え方をみんなに持ってもらうこと。安倍首相も「ためらわずに申請を」と国会で言っているんだからと、必要な人にはそのように申請に行きましょうと言い続けるしかないんじゃないかなと思います。当面は。
 笹井 そうですね。私も「ためらわずに申請を」という言葉を引き出してくれて本当にうれしかったです。あの安倍首相が言っているんだから使えるなあと思って。つい先日、対市交渉をしたときにも「安倍首相が言っているんだから、さいたま市もその立場で頑張ってください」と言ってきたばかりです。
 田村 あの私の国会質疑の場面はどんどん活用してもらえたらと思います。同時に、やはり申請をためらわせる要素があるのも事実なので、この際、安倍さんは「ためらわずに」と言ったけれど、ためらわせる問題がこんなにあるじゃないかという声をどんどんあげてもらって、「これがためらわせているんだよ」と、「だから一気に変えようじゃないか」という当たり前の運動を起こせていけたらなと思いますね。
  「もうけ主義の自治体は要らない」ということをはっきり主張しながら、「安倍首相があのように答弁したじゃないか。それをあなたたちはどう受け止めているのか」と言って、当面は法律通りやるようにさせることですね。そして、新しい制度を要求しながら変えていくことが求められているのではないかと思います。そういう立場の下で、私たちの運動をもっともっと強化していこう、と。そういう点で話が一致したのではないかと思います。
 田村 はい、そうですね。
 野・加藤・笹井 今日は貴重な時間をありがとうございました。
 田村 こちらこそ、ありがとうございました。(終わり)

(2020年8月30日号「守る新聞」)

 
   
  Copyright (C) 2007 全国生活と健康を守る会連合会 All Rights Reserved.